マーケティング 小売店 接客

量販系大型書店のスタッフの神対応。スタッフ全員が彼女ならその店舗の売り上げはきっとすごいことになるだろう。わたしもこんな風になりたい。

彼女はしゃがんで、こちら側に背中を向けて、商品を商品だなに供給・補充する際に使うワゴンから商品を取り出し、棚に補充しようとしていました。わたしは、その彼女に背中側から声をかけました。驚かせないように、なるべくやさしい小さな声で

「あの〜、すみません」

わたしはこの行為に関しては熟練している。週に2回以上本屋に行き、本を探す時間がもったいないので、お目当ての本がある場合は、店員に聞く。彼らは、当然だが、その本がどこにあるかの検討をつけるのが速いので見事にわたしを目的の場所に導いてくれるのだ。近くにいる店員さんを探してはこのように声をかける。

声をかける行為に熟達しているわたしは、この場合の彼らの対応にも精通している。ほとんどこんなかんじだ。

まず声をかけられたスタッフは「はい」と作業をしながら返事をする。わたしが次のセリフを言うまで、作業を継続している。効率よく仕事を進めるためにはそうなるだろう「環境汚染関連の本ってどのあたりにありますか」例えばこういう風に聞くと、彼らは手を止め、膝に両手を置いて立ち上がる。首が下がったまま腰椎の4番目あたりから上に引き上げられ、最後に首があがり、首を回して目線をわたしにくれる。

持っていた本をラックに置き、ちっ、めんどくさいおっさんやなあというのを絶対に顔に出してはいけないぞというような引き締まった笑顔で「こちらでございます」と言いながら歩きだし、わたしを目的地に運んでくれる「このあたりが環境に関する本が並んでおります。汚染となりますと、そうですね、このあたりです」と丁寧に案内してくれる。それに対して、わたしは丁寧にお礼を言って、本を探す。

まあ、一般的な対応はこんな感じ。多少の差はある。ぶっきらぼうだったり丁寧だったり。だけど、おおまかは変わらない。そんな感じだ。

ところが、その日は衝撃な対応に遭遇した。驚いたわたしは、一瞬何を伝えるかを喪失した。あわてて聞きたいことを思いだし「あ、あの仏教関連の本を探しているのですが」となんとか絞り出した。

いつものように、その仏教関連の本を手に入れるために店員を探した。20メートルほど離れたところで、ワゴンから本を出し、棚に補充している店員さんがいたので近づいていった。女性だ、とっている体勢は同じだ。しゃがんで、背中を向けている。驚かせないように静かにやさしく声をかけた「あのー、すみません」そういったあと、わたしは彼女の、はいという返事を待っていた。ほとんどの店員さんがとる一連の行動である、顔を商品に向けたまま、はいと返事するそれを待っていた。

ところが彼女は、他の店員のそれとはまったく違う行動をとった。わたしはとても驚いた。

彼女はわたしの声を背中越しから聞いた瞬間に、ハムストリングスと大殿筋および中殿筋を収縮させそれと同時に足首と膝と股関節を伸展させ、キレイに磨かれたフロアーを両方の足の裏で強く踏んだ。一気に力が地球にかかった。地球はそれと同じ強さで彼女を押し返した。

押し返された彼女の体は一気に伸び、最後に頚椎が完全に伸ばされ頭頂部が天を指し、勢いで10センチほど浮かんだ。体が最高点に差し掛かった瞬間彼女は頚椎を左にひねり顔を180度回転させわたしの目に目線を合わせてきた。肩までの長さの髪が回転にひっぱられ遅れてついてくる。顔が止まったと同時に髪が慣性の法則によりすすみつづけ、前髪との堺にある横の髪が200本ほど顔にかかった。

慣性の法則はそのまま彼女の体全体に作用し続け、両肩のラインが両耳のラインに平行になったところで止まり、胸がこちらを向き続いて腹が、骨盤が、大腿骨が、スネがそしてつま先がわたしのほうに向かって、彼女の足の裏は再びフロアーをとらえた。

顔にかかっていた200本の髪は元に戻り、下にさがった。彼女の目は完全にわたしの目を捉えていた。すでに満面に笑みを携えた彼女はそこで始めて声をだした

「はい、なにかおさがしですか?」

卒倒しそうになった。いまだかつて、このような応対をされたことがない。きっとマニュアルにはない。彼女の資質が、素養が、人なつっこい性格がそうさせたのだろう。声がかかった瞬間、作業を一瞬でとめて、お客様に背中を見せたまま声をだすなんて失礼だ、しっかり正面をみて応対しようと、本能で反射的に行動したのだろう。
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スタッフ全員がこんな人だったら、この本屋はいったいどれくらいの売り上げをあげるのだろうか。こういった愛のある対応を教育するとなると莫大な費用がかかるだろうな。でもそうなったら、その企業はきっと話題になるだろうなと思いながら、なにより、そのあまりにも愛のある対応に、わたしは気分が高揚し、とても幸せになった。

はたしてそこまで必要なのかというと、絶対にそうだとはいえない。商品が本という性質上、そこまでの接客が必要かというとそうではないかも知れない。ところが、もしこれがカフェなら、彼女がカフェの店員なら、まちがいなくわたしはその店に行くし、頻度もあがると思う。

我々が思っている以上にお客さんは敏感だし繊細だ。おれって良い客だろうかと考えている人も多い。スタッフの態度が、なんかぶっきらぼうだと、このやろうと思う反面、俺がだめなのかなあと、離れていってしまう人も多いのだ。わたくしゴトだが、店員がなんとなく怖いガソリンスタンドには絶対にいかない。車に精通していないわたしは、なんかちょっと嫌なのだ。

なのでそんな風に感じさせない店員や店舗は大歓迎だ。歓迎されていると思うとまた行きたくなる。

接客や接遇というのはとても大切で、ある程度の質を維持しようと思えば当然マニュアルは必要だが、実はその前というかベースというかが大切だというのが、今日の話でわかるだろう。

弊社では『接客や接遇の前に学ぶこと』というタイトルの研修やセミナーも行なっている。まあ、それはいいのだが、うわべだけの丁寧なんてクソ食らえということだ。

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