セールス マーケティング 小売店 高島圭吾物語

高島万之助商店6代目当主高島圭吾

「たかし」

高島圭吾が発した声に、驚いて背筋を伸ばし顔をあげたと同時にたかしは立ち上がった。そして真っ直ぐに高島を見据え直立不動で不安げに返事をした。

「はい」

高島圭吾36才。江戸末期から続く170年続く高島万之助商店の6代目当主だ。大学卒業後大手製薬メーカーに営業マンとして勤務するも、4年前に先代である父親を亡くし、急遽6代目として10年勤めたメーカーを退職し現在にいたっている。

高島万之助商店は海産物の商店として始まり、以降、歴代当主の先見の明で時代にあった商品を取り上げては販売し、現在とりあつかっている商品は10000アイテムを超え、中規模の商社となり、従業員も200人を超えるまでとなった。

もう完全に体制ができている会社にもどってきた圭吾は、それを壊す気はまったくなく。専務として5年以上従事している実弟の康介を実質上のトップとし、その運営をまかせている。社長就任早々に、圭吾は取締役会でその旨を告げた。

実質上の経営者である康介と新任社長でまったく畑違いの仕事をしていた圭吾との関係を懸念していた取締役会は、それを聞いてほっと胸をなでおろした。

圭吾は、それと引き換えにというつもりはないがと前置きし取締役会で2点お願いがあると話だした。1点目は、電器店の設立。事業部としてでも、子会社としてでもよいのだが、いわゆる街の電気屋さんをやらせてくれと言い出したのだ。これには、康介をはじめとする役員は、口をあんぐりあき驚いたが、会社に迷惑をかけない、1年やって駄目ならすぐに事業を畳むという約束をとりつけ、子会社という形で始めることにした。
11026033_630814987055617_1443032106535370732_n
何をいまさら斜陽となっているパパママ電器店を始めるなどと言い出したのかは疑問だが、まあそれは、また別の機会にはなしたいと思う。

そしてもう1点は若手や学生に向けたビジネス塾のようなモノを立ちあげたいというものだった。江戸から続く老舗に敬意を払って例えるなら、寺子屋のようなものだ。松下村塾を作った吉田松陰を敬愛する圭吾は、現代日本のビジネスをとりまく状況に不安を覚え、早急に若手のビジネスマンを育てる必要があると考えていた。

もちろん自社の事業であげた売上の範囲でまかなうと告げたのもあったのか、こちらは、まったく問題ないでしょうということで取締役会を通過した。そういった流れで晴れて、待望の電器店をもつことになった圭吾は、本丸である高島万之助商店は、弟にまかせきっりで、子会社である高島電器店で自身2つ目のキャリアをスタートさせていた。

「たかし、損益計算書の一番上に書いてあるのはなんだ」

高島は塾の生徒である山城隆士に向かってやさしく厳しい声で語りかけた。

「なんだたかし、損益計算書ってのは知ってるよなもちろん」
「損益ですよね」

と下を向いてパソコンで検索しようとしている様子を笑いながら見つめながら圭吾は、

「ようすけ、ちょっと画像だして」

そういわれた僕はあらかじめ用意していた画像をクリックし拡大し、正面にあるスクリーンに写した。そうそう、申し遅れましたがわたくし上垣洋介ともうします。圭吾とは製薬メーカーの同期入社です。圭吾はセールス部に、僕はマーケティング部に配属されました。

同期入社は30人いたのですが、共通の趣味であったサーフィンがきっかけで話すようになり、その後も馬が合うという理由で月に1度くらいのペースで互いに近況報告しながら交流を深めました。学生だった我々は入社後それぞれの部門で、それに洗脳されどっぷりつかり、セールスVSマーケターの構図そのままで、時には激しく口論し、あわや殴り合いというところまでいくようなこともありました。

とはいうものの、お互いにリスペクトな気持ちはあり、圭吾の父が急死し会社を辞めざるを得ないという時に、ヤツに強烈に強引に勧誘され現在にいたっているというわけです。大手の製薬メーカーにいれば将来は安定だったのですが、組織が大きすぎることで持ちがちな、歯車感を多少感じていた僕は、大手ではないが中規模な商社で、老舗な会社だから、まあ悪くもないし、楽しいことが起こりそうだとしぶしぶ手をあげました。

そう思ったら、なんと今さら、大手量販店の台頭で潰れまくったパパママショップの代表である町の電気やさんですよ。やっぱ、失敗したかなあと思ったのですが、まあ乗りかかった船、幸いな事に仲だけはよく、社長であろうと言いたいことは言えるので、おかしかったらおかしいと言いまくって、当面はこの仕事を続けたいとおもっています。

語り部としてみなさんに、のちに平成の吉田松陰と言われる男、高島圭吾の近辺を紹介していきたいと思いますのでよろしくおつきあいのほど、お願い申し上げます。

スクリーンに画像がでたことでパソコンから目を離し、正面のモニターはその画像の一番上に書かれてある文字を読んだ。

「損益計算書」
「ばかか、おまえは」

一番上の文字を読んだたかしにあきれた声で突っ込んだ圭吾の声を聞いて、塾の生徒たちはいっせいに笑った。

「その次だよ、なんて書いてある?」
「売上高です」

そう、さすがたかしだなと言って、座ることをうながした圭吾をみて、生徒たちはまた笑い、たかしは頭を書きながら席についた。(つづく)

[登場人物]

高島圭吾
1980年生まれ35才。株式会社高島万之助商店6代目社長。株式会社高島電器店社長。独身。

上垣洋介
1980年生まれ36才。株式会社高島電器店専務取締役兼秘書部部長兼社長秘書。前職製薬メーカーで高島の同期。マーケター

山城隆士
1993年生まれ23才。中堅文房具メーカー営業職。高島ビジネス塾塾生。

セールスとかマーケティングとかビジネスのことを、ビジネス小説風にして書いてみるのもおもしろいかなあとフと思って始めました。いつまで続くかわからないけど、やってみます。

-セールス, マーケティング, 小売店, 高島圭吾物語
-, ,